液晶ディスプレイの解像度変更

はじめに

現在、PC用のディスプレイはCRTに代わり液晶が主流となりつつあります。確かに消費電力、容積、重量等を考慮した場合、液晶の方が利点も多く、CRTとの価格差が小さくなってきた今となっては自然の流れと言えます。
しかし、CRTにも液晶には無い利点があります。その一つが、(マルチスキャン機能を持つ場合)入力信号の解像度によってディスプレイ全体の画素数を変化させることができるという点です。一方液晶の場合、ディスプレイ全体の画素数は一定で変化することはありません(固定画素方式)。この画素数で表示させる解像度を、液晶ディスプレイの最大解像度と呼びます。では、液晶ディスプレイに最大解像度と異なる解像度の信号を入力した場合、画面にはどのように出力されるのでしょうか?

最大解像度と異なる解像度と一口に言っても、次の三通りのパターンが考えられます。

  1. 縦・横のいずれもが、最大解像度以上となる解像度
  2. 縦・横の一方が最大解像度より大きく、もう一方が最大解像度より小さい解像度。
  3. 縦・横のいずれもが、最大解像度以下となる解像度

ここでは3の場合のみを考えます。理由は、他の二つがあまり一般的に用いられることは無いと考えられ、実際に私自身がそのような解像度で使用する機会が無いためです。
一応分かる範囲で説明しますと、1の場合では最大解像度で表示できる範囲のみが出力される(VGAのドライバによっては、スクロールすることで残りの範囲も表示可能)か、もしくは簡易表示機能によって間引きされ、自動的に最大解像度に収められた形で出力されます。2の場合は…知りません。出力できるのかどうかもよく分かりません。
そして3の場合、すなわち最大解像度よりも低い解像度の画面を出力する場合、何もしなければ画面が液晶全体に引き伸ばされて表示されますが、製品によっては以下の3つの処理を行って表示させることができます。

  • 原寸表示
  • アスペクト比固定拡大
  • スムージング

このページでは、液晶ディスプレイにおけるこの3つの機能を中心に解説していきたいと思います。なお、このページではPC用の液晶ディスプレイを前提にしていますので、液晶TV等の場合は状況が多少異なる可能性がありますのでご了承ください。

異なる解像度とは

では、ディスプレイの最大解像度より低い解像度の信号が入力されるとは、どのような状態を指すのでしょうか?
一番分かりやすいのはOS上で解像度の変更するときで、例えば最大解像度1024×768のディスプレイで解像度640×480の画面を表示させる場合などです。ただ、普通はそのような使い方をすることは無いかと思います。これが重要になるのは、主にPCゲームにおいてフルスクリーン表示を行う場合です。PCゲームでは、640×480などの固定解像度や任意の解像度でフルスクリーン表示させる物があり、そういったゲームをプレイする場合に最大解像度とは異なる解像度で表示させている状態となります。
また、OSが起動するまでに表示されるBIOSの画面も、一般的に最大解像度より低い解像度となっています。
それ以外に、MS-DOSや(高解像度表示を行っていない)Linuxのコンソール画面などがあります。

ただし、メディアプレイヤー等で動画をフルスクリーン表示させる場合は、動画を現在の解像度に引き伸ばして表示させているだけなのでここには含みません。

ディスプレイ対応とVGA対応

最初に述べた原寸表示、アスペクト比固定拡大、スムージングの三つの処理を行う場合、ディスプレイ側で処理される場合とVGA(グラフィックアクセラレータ)側で処理される場合があります。それぞれの利点および欠点は以下の通りとなります。

  • ディスプレイ処理
    利点
    処理がマシンやOSに依存しない。
    欠点
    ディスプレイのコストがかかる。
  • VGA処理
    利点
    ディスプレイのコストが抑えられる。
    欠点
    対応ドライバが必要になる。

片方が対応していればもう一方が対応している必要はありません。しかし、製品によっては特定の解像度でしか機能が働かないことがありますので御注意ください。

原寸表示

原寸表示とは、ディスプレイの最大解像度よりも低い解像度の信号が入力された場合、その信号と等しい解像度でディスプレイの中央(もしかしたら中央以外にもあるかもしれません)に表示させる機能です。つまり、液晶の1画素当たりに1ピクセルの信号を表示させるということです。表示領域外の部分には何も表示されません。この機能が無い場合、表示画面がディスプレイ全体が引き延ばされて表示されます。

例 1-1

最大解像度256×192のディスプレイに160×120の信号を出力すると仮定し、その状態をサンプル画像を使って再現します。

原寸表示
無し 有り
原寸表示無し 原寸表示有り
拡大後の解像度:256×192
同比率の具体例:
  • XGA(1024×768)液晶に640×480の信号を出力する。
  • アスペクト比固定拡大機能のあるSXGA(1280×1024)液晶に800×600の信号を出力する。

例1-1を見ると分かるように、原寸表示ができない液晶では線の太さが一定にならず、表示にムラができてしまっています。下のパターン部分を見ると分かりますが、これは入力信号の1ピクセル幅の線が、液晶画面上で幅2画素で表示される箇所と幅1画素で表示される箇所が作られてしまうことが原因です。この例の場合は解像度が1.6倍に拡大されているため、大体3/5程度の割合で幅2画素の線が作られていることになります。

例 1-2

最大解像度320×240のディスプレイに160×120の信号を出力すると仮定し、その状態をサンプル画像を使って再現します。

原寸表示
無し 有り
原寸表示無し 原寸表示有り
拡大後の解像度:320×240
同比率の具体例:
  • アスペクト比固定拡大機能のあるSXGA(1280×1024)液晶に640×480の信号を出力する。
  • UXGA(1600×1200)液晶に800×600の信号を出力する。

例1-2を見ると、例1-1のように画面にムラができるといったことはなく綺麗に拡大されています。この例では解像度が2倍、すなわち整数倍に拡大されているために、ドットが全て縦横2倍に拡大された4画素で表示されているためです。この場合は特別な処理をしなくても綺麗に拡大されます。

対応状況

原寸表示は、ディスプレイ側では対応していないことが多いです。価格の安い製品の場合は対応してないと思ってほぼ間違いないでしょう。一方、VGA側では多くの場合対応しています。
対応している製品は大抵の場合、原寸表示のON/OFFの切り替えは可能だと思いますが、ノートPCの中にはOFFにできない製品もあるそうです。

原寸表示は入力信号をそのまま出力することができる反面、表示画面が小さくなってしまうという難点があります。一方、拡大処理をした場合、表示画面は大きくなりますが整数倍の拡大が行えない場合は無理矢理引き伸ばされて表示にムラができるという難点があります(もっとも、スムージング処理を行うことである程度綺麗に表示されますが)。画面の再現性と画面の大きさ、どちらを重視するかはその人次第でしょう。
なお、ディスプレイによっては例1-2で挙げたような整数倍拡大が行える場合、自動的に拡大する機能を持つ物もあるようです。

アスペクト比固定拡大

アスペクト比固定拡大とは、ディスプレイの最大解像度よりも低い解像度で、ディスプレイのアスペクト比(横:縦の比率)と異なるアスペクト比の信号が入力された場合、入力信号のアスペクト比を保持したまま出力画面を拡大表示させる機能です。表示領域外の部分には何も表示されません。この機能が無い場合、出力画面が液晶全体に引き延ばされるため本来のアスペクト比とは異なった画面が出力されることになります。この機能は拡大する際に必要となる処理ですので、原寸表示を行う場合には関係ありません。

例 2-1

320×256のディスプレイに160×120の信号を出力すると仮定し、その状態をサンプル画像を使って再現します。

アスペクト比固定拡大
無し 有り
アスペクト比固定拡大無し アスペクト比固定拡大有り
拡大後の解像度:320×256(アスペクト比固定:320×240)
同比率の具体例:
  • SXGA(1280×1024)液晶に640×480の信号を出力する。

例2-1では少し分かりにくいかもしれませんが、アスペクト比固定拡大されな場合、全体が少し縦に長くなり、本来と異なるアスペクト比で表示されます。具体的には、画面のアスペクト比が4:3から5:4となるように、縦に約1.07倍引き伸ばされていることになります。

例 2-2

320×192のディスプレイに160×120の画面を出力すると仮定し、その状態をサンプル画像を使って再現します。

アスペクト比固定拡大
無し 有り
アスペクト比固定拡大無し アスペクト比固定拡大有り
拡大後の解像度:320×192(アスペクト比固定:256×192)
同比率の具体例:
  • WXGA(1280×768)液晶に640×480の画面を出力する。

例2-2でも同様に入力信号と異なるアスペクト比で表示されていますが、アスペクト比の誤差が例2-1に比べてハッキリと見て取れるほど大きな物になっています。

対応状況

アスペクト固定拡大は、原寸表示と同様にディスプレイ側で対応していないことが多いです。同様に、安物の場合は対応してないと思って間違いないでしょう。ちなみに、対応しているディスプレイは多くの場合、原寸表示にも対応しているようです。また、VGA側でも対応している物は少ないです。現在の所、nVIDIA社製のGeForceシリーズでディスプレイとDVI接続をした場合のみ対応しています。
対応している製品では大抵の場合、アスペクト比固定拡大のON/OFFの切り替えは可能だと思います。

アスペクト比固定拡大は、ディスプレイの最大解像度のアスペクト比が4:3以外の場合、すなわち SXGA(1280×1024)、SXGA+(1400×1050)、WXGA(1280×768) 等の場合に重要になってきます。何故なら、PC上(主にゲーム)では4:3の解像度の画面を表示させることが多いからです。ただし、例 2-1 を見ても分かるように SXGAディスプレイの場合アスペクト比は5:4で、4:3に対してアスペクト比の誤差は比較的小さな物であるため、人によってはあまり気にならないかもしれません。
アスペクト比が4:3のディスプレイの場合でも、4:3以外の入力信号をアスペクト比を保持したまま出力画面を拡大表示させたい場合は同様にアスペクト比固定拡大機能が必要となります。そのような必要はあるのかという疑問はさておき。

スムージング

スムージングとは、ディスプレイの最大解像度よりも低い解像度の信号が入力され画面が拡大処理される場合、補完処理をかけて拡大後の画面を滑らかに表示させる機能です。原寸表示を行う場合は使用されません。この機能が無い場合、入力信号1ピクセル当たりを表示させる画素数が不均等となるため、表示にムラができてしまいます。

例 3-1

例 1-1の原寸表示をしていない画面を出力すると仮定し、その状態をサンプル画像を使って再現します。

スムージング
無し 有り
スムージング無し スムージング有り
拡大後の解像度:256×192

例 3-1 を見ると、スムージング処理を行うことで画面全体に補完処理がかかり、表示にムラが無くなり全体が滑らかに表示されていることが分かります。

例 3-2

例 1-2の原寸表示をしていない画面を出力すると仮定し、その状態をサンプル画像を使って再現します。

スムージング
無し 有り
スムージング無し スムージング有り
拡大後の解像度:320×240

例 3-2 を見ると分かるように、整数倍拡大の場合はスムージング処理を行うことで、行わない場合に比べて全体的にぼやけた画面が出力されます。

対応状況

スムージングは、多くの場合ディスプレイ側で対応しているようですが、一部対応していない製品があることを確認しています。nVIDIA社製のVGAでアスペクト固定拡大を行う場合もスムージングが働きます。
対応している製品の中には、スムージングのON/OFFの切り替えができない物があります。

スムージングは普通ディスプレイ側で対応しているので、対応に関しては問題ありません。問題なのはむしろ、処理をOFFにできるかどうかにあると言えます。例 3-2を見ると分かるように、出力画面を整数倍拡大した状態でスムージングが働くと、画面全体がぼやけてしまいます。線のギザギザ(ジャギー)無くなって良いと考える人もいると思いますが、画面の再現性を求める人にしてみるとあまり好ましい状態とは言えません。対応した製品の中には、このように整数倍拡大が行われる場合、スムージングをOFFにする機能を持っている物もあります。
なおスムージング処理は製品によって異なります。中にはスムージングの強さを調節できる製品もあります。例に挙げた画像はスムージングを擬似的に表現したに過ぎないので、あくまでも参考程度に考えてください。

最後に

液晶という固定画素方式の表示デバイスの普及は、解像度を変更して使用するPCゲーマーにとって多少の問題を孕んだ物でした。今後、固定画素方式ではないデバイスの普及が見込めない以上、その点は妥協していくしかないのですが、その中でもできるだけ本来の表示に近づける機能がある方が望ましいと考えられます。そのために必要なのが、先に述べた3つの機能です。
しかし最近ではコストダウンのためか、ディスプレイ側のアスペクト比固定拡大と原寸表示の機能は削られる傾向にあるようです。そのため、それらの機能をディスプレイに求めた場合、選択肢の幅はかなり狭くなってしまうでしょう。特にアスペクト比固定拡大に関しては、VGAではnVIDIA社以外に対応していないために、SXGA(1280×1024)ディスプレイを使用したい方にとってはなかなか厳しい状況と言えます。もっとも、アスペクト比が4:3のディスプレイを使用する方には関係ないのですが…。


参考:

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